■サブカル部インタビュー企画第1弾


記念すべき第1弾のゲストは…

漫画も描けるイラストレーター

あらいぴろよ氏
あらいぴろよ氏

あらいぴろよ氏

via あらいぴろよ

プロレス観戦が趣味らしく、この日いただいた名刺には、技を華麗に決めるプロレスラー達が描かれていた。

このイラストから、あらいぴろよ氏の作風・センスが垣間見えた気がする。

そんな彼女は、過去に虐待経験がありそれをコミックエッセイにし虐待という社会問題を提示している。

《あらいぴろよ刊行作品》

『ワタシはぜったい虐待しませんからね! ― 子どもを産んだ今だから宣誓!』(主婦の友社)
『“隠れビッチ”やってました』(光文社)
『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(光文社)


《新刊情報》

彼女がイラストや漫画を描いていくのは、過去の経験も大きく関わっているそうだ。

今回は、商業系イラストレーターとしての“舞台裏“をのぞかせてもらった。

■なぜ世界は私を見つけないのか?

あらいぴろよ氏

あらいぴろよ氏

via サブカル部編集部撮影

なぜイラストレーターになろうと思ったのですか?
あらいぴろよ(以下:あらい)
『小さい頃から絵を描くことが好きでした。また、りぼん(漫画雑誌)が身近にあったから、そこからマンガ家という職業、絵を描く仕事があるということを知り、憧れを持っていました。

でも “なり方”が分からなかった。

「コンテストへ応募すればいいの?」
「誰かに弟子入りするの?」
…弟子入りするとして、じゃあどこに電話すればいいの?と何も分からなくて。

それに、漫画家やイラストレーターって雲の上の職業ってイメージもありました。「安定していない・普通じゃない仕事で、選ばれた人にしかできない職業なんだよ」と言われていましたし。

実際大人になって現実は甘くないことにも気付いたので、諦めかけていましたが、やはり心のどこかでずっとくすぶった思いを抱えていました。』

漠然と「イラストレーターになる」と思ってから、最終的に自分の職業にしたわけですよね?決意したきっかけは何だったのでしょうか?
あらい
『当時、好きだった人と将来何になりたいかと話をしていて

私「絵を描く仕事がしたいな〜」
その人「(その為に)何を頑張ってるの?」

と聞かれて……実際何もやってねぇなってやっと気づいた(笑)

「このコンテストは自分とは合わない」「絵を描くまとまった時間がない」などと理由つけて、夢を叶える為の行動は全然してなかったくせに「なぜ世界は私を見つけないんだろう?」「才能があれば世界から声かけてもらえる」などと考えていたんです。

それと、自分からガツガツ売り込みするのがカッコ悪い気がしていたのですが、それはお金が欲しいんだ、自分を安売りしてると思われるのが嫌だったから売り込みとかもできてなかった。

結局、変なプライドと人の目を気にして自分で間口を狭めていたんです。』


「世界が私を見つけない」って気持ち、めちゃくちゃ理解できます(笑)
気付いた後はどんなアクションを?
あらい
『学歴も賞歴も無かったので、とりあえず専門学校に入ってみました。
なんでかというと(コネクションあるかな~)と期待していたからなんですけど、……全然なかった!!!
当たり前なんですけど、当時の私が想像していたコネ(=なんでも融通が利く口利き)は世の中には無いですね! (笑)

なのでまずはデザイナーになって、自分で繋がりを作ってから独立した……はずなんですが、それでも最初の1年は、思ったように仕事もなくてジタバタすることになりました。

しかし、そうしてフリーで活動し続けるうちにコネクションって人徳なんだなって気付きました。

「この人は締め切りを守るから、安心して仕事を頼める。」
「この人なら他の人に紹介しても大丈夫そうだな。」

そういう信頼が新しい仕事を呼んできましたので。

真摯にやっていけば信頼関係・繋がりは必ず作れるので、初めはなにもなくても、焦ったり見栄をはらなければ大丈夫!』

安定した職業へ走らずに、イラストレーターになってでも伝えたい事とは何だったのでしょうか?
あらい
『後付けでならいくらでも言えますが、正直に言うならこれはもうミーハーな気持ちしかないです。

かっこいいから、おしゃれそうだから、イラストレーターになりたい!!!

それだけの不純な動機でここまでこれました。

そのことについての葛藤や失敗は『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(光文社)で描かせてもらってますので、よかったらぜひ一読ください…。

マンガ家としては、もはや社会問題でもある虐待について向き合ってきたことを伝えたいと思っています。

私自身が被虐児であり、一児の母でもあるからこそ「子供に虐待しないようにするにはどうしたら良いのか」を踏み込んで描けると思っているからです。

また、私と同じように「どう親になっていいかわからない人のために気負わない育児とはどんなものか」を模索し伝え、その人たちと一緒に親になる楽しさを味わっていきたいと思っています。』


■プロが意識する“パクリ”の世界

イラスト業で安定した収入を確保するのは難しそうという印象なのですが…
あらい
『イラストレーターは、だいたいアーティスト系と商業系に分かれるんですけど、これを理解する事が大事です。

【超ザックリした種類分け】
・アーティスト系は自分の世界観を売る
・商業系は指示されたものを描く

そうやって自分の絵のタイプを理解しておくことは超重要で、自分の絵柄にあった売り込み先を見極めることさえ出来れば、後ろ盾がなくても安定していくと私は思っています。

たとえば、私のイラストだと女性に受けやすいから、女性をターゲットにした企業や出版社、広告代理店に私の絵を使いませんか?と売り込むと「じゃあ、一度描いてみて」となりやすいです。

※実際、自分の代わりに無料で売り込みしてくれる中間会社がたくさんあります。私もそういう会社に一部委託しています。

自分の作風はどこで使えるか、自分の絵で戦える土俵を見極めることが大事です。

また、広告でマンガを使うことが増えていますから、イラストだけでなくマンガを描けるようにしておけば収入も安定すると思います。』


制作物ってパクリ疑惑とかありますよね。パクリとオマージュは紙一重の世界だと思うのですが、実際このグレーゾーンはどう意識されているんですか?
あらい
『例えば、キャラクターデザイナーが新しくキャラクターを作ったとして、それと酷似ているキャラが世の中に既出だった場合、「知りませんでした」は通用しないと私は思っています。

プロのキャラクターデザイナーなら“知っていることが前提”だと思うからです。

だから私もマンガやイラストを描く時は、既出かどうか確認するようにしています。

そもそもパクリというのは、人が思いついたものを全て奪うことです。例えるなら「北○の拳は私が描いた!」と言ってしまうようなイメージですね。

オマージュは、人が思いついたものを借りることです。例えるなら男らしい表現をしたい時に、一目でわかる北○の拳風劇画を描く、のような。

このように奪う、と借りる、では全く違うものですし、当然オマージュであってもNGなキャラクター・描写もあります。

このグレーゾーンを知っている・意識していることがプロであるなら絶対に必要です。』


ここでいう理性とはつまりどんな事でしょうか?
あらい
『パクらない、ということは当然ですが、私は人を傷つける表現ではないか、法律に違反することを推奨するような表現ではないか、放送禁止用語なども気にすることかな、と思います。

ただ書く・描くだけなら日記やブログなどで誰でもできます。

でもプロはそれじゃダメなんです。依頼者が、読者が。安心して見れるものを作ることがプロの仕事だと私は思っていますから。

あとはやっぱり、自分の描いたものに責任を持つ、ということですかね。世界で一番自分の絵を愛していれば、人の作品をパクることは絶対ない、と私は思います。

ナルシストっぽく聞こえるのでアレですが、私は自分の絵が好きです。自信持ってます。』


読者に伝えたいメッセージをあえてイラストにする魅力とは何ですか?
あらい
『私の場合商業イラストレーターなので、そもそもが言葉を補足するイラストを描くことが仕事なのですが、言葉だといろんな捉え方があるけど、イラストを添えるだけで著者が伝えたいことをそのまま伝えられることです。

それはボディランゲージのような感じで…。
たとえば「ヨッシャー!」のテンションは文だけでは分からないですよね?
片手でガッツポーズしているのか、両手でガッツポーズしているのか。
でもイラストが入ると、どんな「ヨッシャー!」なのかがビジュアルとして見えてくる。もうそれ以外の「ヨッシャー!」はありえない!

そうして見た人の想像力を乗っ取ってしまうことも私にとっては魅力なのかもしれません。

マンガに対する感想でも、良いことや悪いこといろいろあるんですが、できるなら全部目を通したいといつも思っていますし。』

やはり評価は気にしますか?読者からの評価はどう昇華しているのでしょうか?
あらい
『はい、気持ちが落ち込んでいる時なんかは特に、マイナス評価を検索しちゃいますね!(笑)

できる限り「言ってくれた人の言葉」とは向き合っていたい、という思いがあるからなのですが、“自分”に行き詰まっているから、自分の悪いところ(周りの批判)を見て打破したいんだと思います。

まあ、めちゃくちゃ落ち込むこともありますけども、どん底まで行けばそれ以上落ちることもないので。』


なるほど…とはいえやっぱり批判を見たらちょっと傷付きませんか?
あらい
『そりゃね!!(笑)
でも頑張って作ったものが批判されたら、誰だって悲しいはずです。傷つくのは普通のことなので、気にしないです。

でも “私の作ったものに対してユーザーがどう思っているのか”から目を反らしては商売になりません。

それを聞くことで良くなる部分もあるはずだから吸収していきたいですし、新しいものに繋げられこともあると思うので。
引っ張られ過ぎないように距離感を持ちながら、いろんな意見に目を通していきたいです。』


■リスクに備えた金銭は必要

あらいぴろよ氏

あらいぴろよ氏

via サブカル部編集部撮影
「ビッチ」は一般的には良いイメージのものでは無いはずですが、あえてタイトルに使われた理由は何でしょうか?
あらい
『…その時「隠れ○○」が流行っていたからです。
流行っているという事は、みんなが知っている・使っている・検索されているという事ですよね。
人の目に触れやすいですから、なんにもしてないのに表に出やすい・広告にもなる。そんな流行に自分の描いたマンガを融合させてタイトルにつけるようにしています。

あくまで私の場合ですが、そうしたほうが売れました!¥¥¥¥!!!(切実)』


お金は大事ですよね(笑)
実際の金銭面は…?
あらい
『フリーでいるなら、企業に勤めていた時の3倍稼いていた方がいいかな、と思っています。
フリーだと保障はもちろん、産休や育休もないですしね…。

またある程度年齢や経験を重ねると、求められるクオリティも高くなってきますし、案件によっては取材旅行なんかもあったりして。でもその経費は後払いだったりするので、今お金が出せないとその案件を受けることもできなかったり。

他には突然PCが壊れてもお金があれば対処できますし、色々なリスクを考えて、それに備えられるだけの金銭は必要かな、と私は思います。』

お金もあった上で、あらいさんはどんなスタンスでイラストレーターとしての職業に向き合っているのでしょうか?
あらい
『この仕事って、常にオープンで周りから見える仕事だし、やっぱり安定していないので「止まっちゃいけない」「やり続けないといけない」「休むと収入がなくなる」という気になってしまいがちです。

でも焦った気持ちで作業しても私はいいものは作れなかったので、止まる・休むという選択肢を常にもっていたいな、と思います。

アウトプットするにも時間が必要だし立ち止まらなきゃできないこともあると思う。それに人間だから風邪もひくしね。

表現するのに魂を削ることは多々ありますが、健康じゃないとできませんから。
イラストレーターとしてもマンガ家としても、表現していき続けるために、体は大事にしたいなと思います。』
今の作風に決まったきっかけは?
あらい
『実は今の作風に決まるまで、萌え系・アニメ系などいろんなタッチを描いていました。

そうすると何を思ったのか「○○さんみたいな絵を描いてください」という発注をいただくこともありました。
受注前に、「私は○○さんではないので、同じ絵は描けませんし描きません」とお伝えして描き始めるのですが、当然修正が入るんですよね~。

「○○さんっぽくないんだよな〜」
初めに言ってるよ~~~~??(怒)

結局萌え系・アニメ系なんでも描きますよ!ということで、発注する側からすれば「この人に頼めばなんでも揃う!」と思っていただけたので仕事は増えましたが、テイストコピーもすると思われてしまったようで。

結局いろいろ思う事もありテイストを絞ることにしました』


そりゃそうなりますよね(笑)
本人ではなくその人の絵を真似して描くって意味あるのでしょうか…
あらい
『ないですね。

しかし実際の案件の中にはキャラデザの予算が1万しかない!ということもあって、でもその○○さんにキャラデザを頼むと20万くらいかかる。

そこで私のような「なんでも描きます!」というスタンスのところに話がくるわけです。
でもクオリティは○○さんには及びませんので依頼者はガッカリですし、私も描きなれていないから時間もかかって儲けにならない。

それにその○○さんの仕事を、私なんぞが1つ奪ってしまったことになります。

全員不幸です。絶対ダメです。』


■将来は日本のインフラへ…!

イラスト・漫画とは今後どう付き合っていくかも課題として常にあると思うのですが、イラストレーターとしてどんな展望がありますか?
あらい
『感性は毎日磨いていきたいなと思っています。
流行のテンポはとても早くて、今いいなと思った絵柄や色味も1年経つと「もうダサい!」ということもあるので、置いて行かれないように新しいものをどんどん取り入れていきたいです。

それから、将来的には日本のインフラに入っていきたいです。私が描いたものでなくてもいいのですが、漫画が学校の教材とかに入っていったら良いなーと考えていまして。

それ以外にも、国から受けられる支援や税金の事、選挙や法律、知らないから・分かりにくいから多くの人が距離を取りがちなものを、もっと身近になるように。
いろんな事を分かりやすく、マンガやイラストを使って伝える環境を作っていけたらいいなと思っています。』


具体的にはどんな風に?
あらい
『NPOを立ち上げるべきなのか、普通に広告代理店かデザイン事務所を立ち上げるべきなのか…
要するに何から手をつけたら良いのかさっぱり分かってない口だけな現状です!!!

でもいつかそうなれるように、道を探し続けていきたいです。』


■新刊について

あらいぴろよ氏

あらいぴろよ氏

via サブカル部編集部撮影

8月16日発売の『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)についても、制作意図含め本人の心境を伺った。

タイトルが衝撃的ですよね。
“虐待”という言葉は文字だけでも攻撃力が高いですから、本棚に並んでいたら間違いなく目に止まると思います。
あらい
『「虐待」という単語は見るだけで人を傷つける恐れのある言葉で、インパクトが強すぎるかも…と葛藤しましたが、虐待はこれ以上見過ごしてはいけない社会問題でもあると思うので、この言葉でないとダメなんだ!と使うことにしました。』


あらいぴろよ氏の新刊

あらいぴろよ氏の新刊

8月16日から発売中
via あらいぴろよ/竹書房
なぜ、この本を書かれようと思ったのですか?
あらい
『私は「親父(あいつ)早く死なねーかな」ってずっと思って生きてきたのですが、それって、まず人に言えることじゃないんですよね。
勿論、私だって親の死を願うなんて、そんなことしたいわけじゃないんです。

でもそう思ってしまうだけのことをされてきて、それを誰にも打ち明けられずに生きるってものすごく孤独で、苦しいことでした。

孤独に飲まれないように恋愛依存になって。自分のことしか考えられない浅ましさに気づいて、また自分を嫌いになって歪んでいく。

そういった痛みと歪みを私に与えた父が死んで、少し経って…キレイに生きてこれなかった私だからこそ描けるものがあるんじゃないかと思ったので描きました。

もちろん虐待を受けた子どもがみんなこうなるわけではなく、1人の被虐児が大人になってどう生きてきたのか、1つの例として見てもらえたら幸いです。』


虐待経験のある人にとっての例ですね。
あらい
『そうですね。
でも、1つのエンタメとしてでもいいので、虐待された事がない方にも読んでいただけたらと思います。

とはいえ…
気持ちのいい話ではないですけどね…。
「気付いた」「乗り越えた」「明日から頑張れる」とかなる話でもないと思います。

…でも虐待を受けた過去ってそんなものだと私は思います。
感動があってたまるかと思っていますし、何よりも絶対に美談にしてはいけないことだと思うからです。

私が出せる思いを全てここにまとめ、人生かけて描きあげました

ぜひお手に取っていただけたら、幸いです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。』


《新刊情報》

『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)

■8月16日発売
■¥1,080

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『“隠れビッチ”やってました』(光文社)
が佐久間由衣を主演において2019年の冬に映画化される。

小関裕太など注目の俳優陣が隠れビッチの毒牙にかかる男たちを演じる。
■映画公式サイト
http://kakurebitch.jp
『“隠れビッチ”やってました』(光文社)が映画化

『“隠れビッチ”やってました』(光文社)が映画化

あらいいろよ/光文社
via サブカル部編集部撮影

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