■サブカル部インタビュー企画第3弾


本企画の第3弾は…

アニメーション制作会社
ジェノスタジオ
ジェノスタジオロゴ

ジェノスタジオロゴ

via ジェノスタジオ提供

伊藤計劃の処女作『虐殺器官』を見事にアニメ映画化し、さらにはTVアニメ『ゴールデンカムイ』(第一期・第二期)などビッグ作品を手掛けた。

質の高い作画や音楽などが高評価を集めている。

また、三宅乱丈が描いた原作コミック『pet(ペット)』をただいま絶賛アニメ制作中だそうだ。
▼先日公開された最新キービジュアル
『pet』キービジュアル

『pet』キービジュアル

via ©️三宅乱丈・KADOKAWA/ツインエンジン

『pet』のあの独特な世界観がどのような色味で表現されていくのか、楽しみにしている原作ファンが多いのではないだろうか。



今回インタビューさせていただいたのは、アニメーション制作の司令塔とも呼べる“制作部”から…
TVアニメ『pet』制作デスク
佐藤悠平 氏
佐藤悠平・制作デスク

佐藤悠平・制作デスク

via サブカル部編集部撮影

TVアニメ『ゴールデンカムイ』話数担当制作
山地景子 氏
山地景子・話数担当制作

山地景子・話数担当制作

via サブカル部編集部撮影

アニメを作る上で欠かせない“制作進行業務”を行う。

私達が観るアニメが毎週決まった時間に放送されるのは、作業工程を見落とさずに管理し、完成まで導く人がいるからだ。

そんな業務に身を投じるお二人には、ここで働くリアルな声、この業界が求める人材についてお話いただいた。



■制作部に入ったきっかけ


Q.まずは「制作部」に入ろうと思ったきっかけを教えてください。

佐藤悠平(以下:佐藤)
『自分は、新卒で入った会社は全く違うものでした。その会社は、待遇も給料も申し分ない職場でしたけど、アニメが好きだったので、せっかくなら好きな事を仕事にしたいなと思ったのがきっかけです。スタッフの座組みや企画に携わる方が自分に合ってそうだなと思って制作に入りました。』

山地景子(以下:山地)
『私はもともと映像全般が好きで、前職はドラマやバラエティーなど実写の編集をやっていました。制作に興味を持ち始めて、求人を探していたらアニメーションの制作を見つけたのがきっけです。実はその前に『虐殺器官』の完成披露試写会に行ったこともあり、「あ、ジェノスタジオだ」と目が止まったんです。
アニメがすごい好きというより、映像全般で何か作る仕事がしたいという思いからこの業界に入りました。』

Q.制作の方は、業界に入る前に絵を学んでいたという事はあまりないのでしょうか?

佐藤
『業界全般を見ても、制作マンはほぼ少数だと思います。自分も描けないです。たとえば、作画の方は専門学校で学んでから来る方が多いです。仕事をし、家でも趣味で描くという人もいます。制作は、絵のスキルを持っていない人の方が多いんです。』


■制作部の業務内容

※ジェノスタジオの場合

【話数担当制作】
担当したTVシリーズ1話分の完成/納品まで、各セクションが円滑に作業できるように管理と進行を行う。

▼業務例
・進行管理
各工程作業のスケジュールやスタッフマネジメントなどを行う。

・営業
作画や、仕上など、完成までに必要な工程に関わるスタッフ全てに、制作協力の営業を行う。

・発注と受注の対応
各種受発注の打ち合わせを行う


Q.話数担当制作の場合は、各話の内部を動かしていくわけですよね?実際はどのように作業工程を進めていくのでしょうか?

山地
『まず、絵コンテをもらったら、(※仮に全部でカット数が300あったとする。)全シーンを捉えやすく描きやすそうなパートで範囲分けをして、アニメーターさんに「ここの範囲のカットを描いてください」と依頼相談をするところから始まります。

そのあとレイアウトという画面の構図を決め、どのようにキャラクターを動かすか、どのような表情で描いて欲しいか、など芝居に関わる「作画打ち合わせ」を行い、以降実際にアニメーターさんは各カットを描いていきます。まずレイアウトを描き、演出⇨作監⇨監督⇨総作監とそれぞれチェックしてもらいます。レイアウトが各セクションでOKになれば、原画作業に移ります。原画は清書にあたります。

原画が上がったら、再び演出と作監のチェックが入ります。
原画のチェックを済ませて、次工程の動画⇨仕上げ⇨撮影と渡って各カットが映像素材になります。

話数担当制作はその全てのセクション間の連絡・調整役です。「××日××時までには上げるので、次の作業をお願いします」というようなやりとりをしますね。
まさに色んな人と協力して作っていくのを実感するポジションだと思います。』
《TVシリーズ1話分のおおまかな作業工程》

《TVシリーズ1話分のおおまかな作業工程》

via サブカル部編集部

シリーズとして全12話制作の場合、各話に1人ずつであれば合計12人の話数担当制作が必要となる。一般的には第1話と第6話を兼任するなど、ローテーションを組んで担当することが多い。



【制作デスク
全体を通し、各話数の進捗をフォロー&管理し統括する役割を担う。コアメンバー(監督や作画監督、仕上げ、撮影など)とのやりとりが多く発生するポジション。また、トラブルの解消もデスクの役目。
制作デスクポジションイメージ図

制作デスクポジションイメージ図

via サブカル部編集部

▼業務例
・スタッフィング
作品作りの軸となる絵コンテ、作監、演出など各話数ごとのコアスタッフを配役する。

・管理全般
全話数のスケジュール、進捗、数値の管理も行う。


Q.制作デスクには、管理能力やコミュニケーション能力が求められそうですね…

佐藤
『そうですね、とても必要な能力だと思います。
作品を支えるコアなスタッフの方々は、年齢もキャリアも自分より上の方々ばかりです。コミュニケーション能力というと平たくなってしまいますが、対等に会話をする緊張感やテクニックはかなり悩ましいところだと思います。』



Q.初めて制作デスクを担当される時も、基本は一人で動かすのでしょうか?

佐藤
『自分の場合は、先輩の下について教えてもらっていましたが、後半になって慣れてくるとほぼほぼ一人で動かしていました。分からない事があったらすぐ先輩に聞きに行くという感じですね。』



Q.過去にやらかした失敗があれば教えてください。

佐藤
『話数担当制作の業務は失敗の積み重ねで回せるようになるものなので、結構細々した失敗はありますね…とくに納品日に間に合わないという事態は多々ありました(笑)
納品へのプレッシャーは常にあるんです。全体を通して考えると、制作に携わる人数は1話数だけでもだいたい100人くらいの規模になるので、その人達を一人で回しながら納品に導くのはなかなか大変です。』
サブカル部編集部 (13192)

via サブカル部編集部

工程は順々に進む為、後ろの工程は徐々に作業量やスケジュールが詰まっていくことが多いという。

良いものを作りたいが、良いものを作る場合はそれなりに時間がかかる。「もっと時間がほしい」という各セクションの主張に板挟みとなることも。

ごく稀に理不尽な事を言われることもある為、うまく受け流すメンタルの強さも必要だそうだ。



Q.山地さんは、転職し、話数担当制作になって半年(取材時)とのことですが、今時点で不安な事や恐れている事はありますか?

山地
『納品の遅れ!あとは車の事故ですね。
フリーランスの作画さんが遠方のスタジオなどにいたりする場合、営業マンのように社用車を駆って直接会いに行ったりするんです。』


■制作部としてのやりがい

ジェノスタジオ提供 (13195)

via ジェノスタジオ提供

Q.やりがいや達成感を感じる時はどんな瞬間ですか?

山地
『やっぱり最後に全編繋がった映像が見られた瞬間ですね…!全セクションを見てきているので、今までの段階を踏んでいくとこうなるのか〜あれがこうなるのか〜ってとても新鮮です。
実写には無い難しさやこだわりを入れられるというのが面白いなと思います。』

佐藤
『だんだんと出来上がってくるんですよ。線画から始まり、色や背景がのっていくんです。』

山地
『そう!だんだんと!色や背景がのると「おおー!」ってなります。全然違いますね。』

佐藤
『原画は動いた映像として確認はできないので、完成になるとようやくキャラクターが映像上で見えるんです。音が入ると映像としても変わりますよね。』

山地
『効果音や劇伴音楽って大事。』

佐藤
『音の要素が加わると完成に近づいてきたな〜って感じます。』


サブカル部編集部 (13197)

via サブカル部編集部

Q.その瞬間が見られるなんて羨ましいです…。佐藤さんはどんなところにやりがいを感じますか?

佐藤
『メインスタッフの選び方によってフィルムがだいぶ変わってくるのですが、「この人にお願いしてよかったな」って思う瞬間にやりがいを感じます。』



Q.スタッフィングをされるという事は、皆さんの能力を把握していないと出来ないですよね?

佐藤
『そうですね。
ただ、初めてご一緒する方は、今までの経歴を見て判断します。昔からお付き合いのある方なら、その人の得意分野を考慮してスタッフィングします。
誰にオファーするかを考えるというのは、ある意味では、ちょっとだけその作品の理想の完成形に近付けさせる事が出来るという事でもあります。』



制作デスクは、位が上がるとプロデューサーになる事もあるそうだ。
プロデューサーには、作品の根本的なところの決裁権があると教えてもらった。

“自分の理想”を形作ることも出来るポジションである。


■人生の大半をかけて作るアニメ

Q.お二人にとって“アニメ”とはどんな存在ですか?

佐藤
『良くも悪くも、仕事ですね(笑)最近はとくに仕事感が強くなってきたと感じています。
四六時中アニメ(仕事)のことを考えて生きているようなものなので、前ほど熱心に趣味の目線では観られなくなりました。
でもプロフェッショナルな意識をもってやっているという意味では生きがいです。』

山地
『私も確かに仕事…(笑)
華やかな世界に思う方もいるかもしれませんが、結構地味な世界なんです。無理難題に本当に多く直面しますけど、その中でどうしたらもっと良いものになるかを日々考えながら、自分の仕事として捉えています。』

佐藤
『そうなんですよね、だから趣味でやっている感じではないです。人生の大半をかけて良いものを作っていこうとしているものです。』



Q.“好き”から“仕事”の認識に変わっていくのは、すんなり受け入れられるのでしょうか?

佐藤
『受け入れにくいものと思います。人にもよるかと思いますが、新社会人で入ったらそこの切り替えが明確に必要かもしれないですね…。
自分達は一度、他業界で社会人を経験してここに来ているので、仕事として最初から取り組んでいました。逆に切り替えの葛藤が長引くと「もっと楽しい現場だと思っていた」と言って辞めていっちゃうことが多いです。そういう理由から離職率が高いのもアニメ制作業界の課題ですね。』


■求められるアニメーション業界の人材

ジェノスタジオ提供 (13220)

via ジェノスタジオ提供
ここからは、広報担当をされている方にもインタビューに答えていただいた。

Q.ここではズバリどんな人材が求められているのでしょうか?

瀬川
『制作部に関して一言でいえば、へこたれないという意味の元気がある人ですよね。映画や、TVドラマ、TV番組、舞台など「制作の裏方」に関わる人全てに言えると思います。』

佐藤
『初っ端から100人規模のスタッフを動かしたり、目上の方々と会話をすることも多いですし、管理や進捗の数字も見ないといけないので、新卒で入ってくると敷居が高かったりします。他の業界や会社で一回揉まれた方が、入り口の通りは早いかもしれないです。
それからやる気と覚悟!』

山地
『覚悟!あと耐えきる力!
圧は違ってもストレスって絶対あります。それに耐えきれないとキツイと思います。』


佐藤
『この業界の辛さって調べるとたくさん騒がれていますが…(笑)「アニメが好き」って勢いだけでくると「思ってたのと違った」となってしまうので、それなりの“覚悟”は持っていた方が良いです。それだけ大変な仕事なんだってことは最初に知っておいてほしいです。』

瀬川
『やる気を持ち続けられれば良いんです。
制作は忙しいですが「待たされる」こともとても多い仕事です。そして佐藤の言ったように100人規模のスタッフを相手にするという事は一般企業で言うところの“部長クラス”と同じかそれ以上なんですね。始めから高い位置での業務になる、だからやっぱりへこたれそうになる事も多いです。』
サブカル部編集部 (13203)

via サブカル部編集部

Q.ということは、アニメの知識がなくても、基本的な管理能力とメンタル面の強さが整っていれば、制作部には入りやすい…?

瀬川
『充分に活躍できると思います。また、裏方の制作を経験すると、アニメが出来上がるまでの全行程を把握することになりますから、制作を経験したあと、さらに演出を目指す人もいますし、CGの技術を学んでCG制作へ進む人もいます。クリエイターを目指したいけど…と悩んでいる人にもぜひ、まずは制作やってみないかと声をかけたいものです。』
ステップアップの一例

ステップアップの一例

via サブカル部編集部

Q.仕事で溜まったストレスはどういったところで発散されていますか?

山地
『私は映画です!1日で一気に4本観たりしてます。』

佐藤
『自分も週末に映画ですね。身体を休めている事が多いです。休みの日に他のアニメ作品を観ると仕事の事が気になっちゃう(笑)』

山地
『私はそこはあまり気にならないですね。「いいな、こういうの作りたいな」って思ったりします。』


■目指す先は“人を育てること”

インタビューに応じていただいた制作部メンバー

インタビューに応じていただいた制作部メンバー

via サブカル部編集部

Q.今後の展望を教えてください。

佐藤
人を育てたいです。クリエーターも制作も。業界を取り巻く環境的には、待遇はまだあまり良くないですし、ジェノスタジオではクリエーターの外注率はほぼ100%なので。
外注率が高ければ高いほどクオリティーやスケジュールは安定しにくいし、それだけ苦労もします。
作品のクオリティーやスケジュールなど会社としての強さを上げていくのに必要なのは、やっぱりクリエーターさんも含めて「社内で人を育てていく事」かなと思っています。』

山地
『当面の目標は一人前になる事!(笑)全ての作業を円滑に、1本回せるようになる事がまずは目標です。
あとは同世代の面白い考えをもったクリエーターさんと仕事してみたいです。色んな方々とコンタクトを取って、面白いものを作っていけたら良いなと思います。』

佐藤
『そういう出会いが将来的には、宮崎駿さんと鈴木敏夫さんのような関係になったりする事が制作にはあります。
「あなたの為に作りたい」という関係値があると制作にはすごく良いんです。』



■『pet』
『pet 』キービジュアル

『pet 』キービジュアル

via ©️三宅乱丈・KADOKAWA/ツインエンジン
【原作】
三宅乱丈『ペット リマスター・エディション』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)

【キャスト】
ヒロキ:植田圭輔
司:谷山紀章
悟:小野友樹
林:加瀬康之

【スタッフ】
監督:大森貴弘
監督補佐:小竹 歩
シリーズ構成:村井さだゆき
キャラクター設計:羽山淳一
アニメーションキャラクターデザイン:工藤昌史
総作画監督:山田正樹/日向正樹
エフェクト・アクション作画監督:山田起生
プロップデザイン:新妻大輔
美術監督:秋山健太郎/座間智子(スタジオPablo)
色彩設計:岩沢れい子
3DCGディレクター:原 一晃
撮影監督:森谷若奈
編集:関 一彦
音響制作:Ai Addiction
制作:ジェノスタジオ
製作:ツインエンジン



■TVアニメ第三期製作決定ッ!!
『ゴールデンカムイ』第三期キービジュアル

『ゴールデンカムイ』第三期キービジュアル

via ©️野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

関連する記事

関連するキーワード

著者