■劇場アニメ『HELLO WORLD』


劇場版「ソードアート・オンライン オーディナルスケール」にて監督を務めた伊藤智彦監督。

デジタルなど“未来表現”が大好物のオタクは、伊藤監督のテクノロジー的演出に魅了されている人も多いのではないでしょうか。

筆者も、SAOですっかり絡め取られたオタクです。

そんな伊藤監督の最新作、オリジナルストーリーでの劇場アニメが9月20日から公開されましたね。



『HELLO WORLD』
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会


純粋に自分の感性だけで本作を楽しみたかった&考えたかったので、SNSでの反響や評価なども一切目に入れずに劇場へ行ってきました。



結論から言うと、


『考察のしがいがある、新しいセカイ系作品だ!』


です。

二転三転する内容だったので、情報処理や世界軸の整理、さらに用語の理解を、ハイスピードに展開される映像を観ながら脳内処理するのはなかなか大変でしたが…

「あそこってこういう意味だったのか?」「だからあのシーンはこうなったのか?」など、あれこれ考えて自分なりの解釈を出すのが好きなので、筆者的には視聴後最高の気分でした。



観終わったあと、ひたすら情報整理してやっと自分の解釈をまとめられた気がします!



というわけで、劇場アニメ『HELLO WORLD』(以下:ハロワ)の考察を書き綴ってみたいと思います。




※ここからは全力のネタバレなので要注意



最初に言っておくと、映画はまだ1回しか観ていない為、記憶が曖昧な部分もあります。

また、小説は未読です。

今回の考察は、

・本編1回鑑賞
・筆者の解釈と妄想がベースの考察


となります!
わりとガバガバです(笑)

どちらかというと、本編観た人向けの内容なので、「未視聴だけどネタバレOKだから読むぜ!」という方にもあまり向いていないかもです。

「内容を知っている」前提で書かれています。


■登場人物と用語


主要部分だけメモがてら記載しておきます。
ネタバレオンパレードです。

堅書直実
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

本作の主人公。
作中はこの直実視点で物語が進んでいく。
10年後の自分=ナオミと出会い、自分達の生きている世界が過去のデータの中であることを知る。
雷に撃たれてしまう一行瑠璃の未来を変えるために、ナオミと一緒に“グッドデザイン”というどんなデータも書き換えることが出来る権限をもつ力を使って世界を変えていく。



カタガキ ナオミ
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

10年後の世界からやってきた未来の堅書直実。
落雷によって目を覚まさなくなった一行瑠璃を助けるべく、過去のデータ(直実の世界)に干渉し、直実に接触する。
直実のいる世界は、アルタラの内部にある情報の一部にすぎない事を伝え、さらに一行瑠璃を助けるよう直実に働きかける。
自分のいる10年後の世界こそが“現実世界”だと思っていたが、実はそこもアルタラの内部で、自分自身もデータの一部であることを知る。



一行瑠璃
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

本作のヒロイン。
美人で無口。
後に直実と恋人同士になるが、花火大会に出かけた際、落雷の被害に…。
10年後の未来では脳死状態で眠り続けている。



カラス
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

足が3本生えたカラス。
ナオミと一緒に未来から来た。
神の手(グッドデザイン)というどんなシステムにも干渉し書き換えることができる力を持つ。
グッドデザインの力は直実にしか扱えない。
その正体は、未来の瑠璃が送り込んだプログラム。



アルタラ
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

その世界で起こった出来事や人物の行動なども、細かく記録に残す量子コンピューター。

直実やナオミのいる世界は、このアルタラ内にあるデータの一部。つまりアルタラに記憶された時代(過去)の仮想世界。
この中でデータ改竄が起こると自動修復プログラムが発動する。また、リカバリーで内部情報を全てリセットしゼロから再構築することが可能。




ところで、自分は現実世界を生きていると思っていたのに、実は仮想世界で自分も情報の一部にすぎなかったってかなりショックでかくないですか…。

このあたりは、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」の世界設定と同じでした。
ユージオたちは、MMORPGのNPCですが、本人たちにその意識はまったくなく、それどころか普通の人間と同じ自我を持っている、という点です。

SAOの知識があった為、この展開はすんなり理解できました。

■ハロワ世界の出来事を図にしてみた


本作は、3つの世界の出来事を逆順で見せてくるのがとても印象的でした。

本来は、

A⇨B⇨C

の順序で見せるものを

C⇨B⇨A

と見せることで、最初に見せられていたCが実はBで、Bだと思っていたら本当はAだった、という二転三転のどんでん返しの演出がとてもイカしていたと思います。

その分、作品の内容をしっかり理解するのに情報整理と把握能力が必要なものでもありました(超大変でした)

テクノロジーや近未来的な世界観もさることながら、ちょっと厨二リリックな部分もあって筆者的にはワクワクさせられましたが…(笑)





さて、劇中では3つの世界が描かれます。
(厳密には4つですが、それは追い追い…。)

作中で起きた出来事と世界の構図を拙いながらもなんとか図にしてみました…
サブカル部編集部作成 (13579)

via サブカル部編集部作成

細かいところは省略です。
書き込みたかったけどスペースが足りなくて、書けなかったものもありますが、広い心の目で見てください。



主人公・堅書直実のいるアルタラ世界を【データA】

ナオミが干渉する前のデータA を【データA-1】

ナオミが干渉した後のデータA を【データA-2】

ナオミのいるアルタラ世界を【データB】


としました。

A-1とA-2に分けたのは、10年後のナオミが10年前の直実に会いに行った時点で、データAの記録が書き換えられているからです。
ナオミは、自分が10代の時に10年後の自分には会っていないですから。

映画本編のスタート、つまり私たち視聴者が見始めるところは、【データA-2】の直実視点となります。

そして、【データA】と【データB】のアルタラ世界では、“一行瑠璃は生存できない記録世界”です。

いろんな出来事が交錯しているかと思いきや、こうして図にしてみると上手い具合に現実世界の“堅書ナオミ”へ集約されていってるんですよね!すごい!

■器と中身の同調


ナオミがデータAに干渉してきた目的は、「一行瑠璃を生き返らせること」です。

瑠璃は、花火大会の時に落雷に遭い、脳死状態で10年眠り続けます。
それがデータBの一行瑠璃です。

ナオミは、瑠璃を脳死状態から復活させるために、【過去の記録から瑠璃の落雷被害を回避させ、データBの脳死状態の瑠璃と統合して蘇生させる】事を目的として、過去データ=データAにやってきたんですね。


作中の大きな鍵となったのは、この脳死状態から復活させるための方法の“蘇生プログラム”です。

『“器”と“中身”を同調させる必要があった』
※うろ覚え

という言葉が作中では2回ほど流れますが、ハロワの世界では、中身(精神)を同調させれば脳死状態の人を蘇生させることが可能とされているようです。

その“中身”とは、まさにアルタラの中にある情報(本人が生きた記録)から抜き取れば良いそうですが、どうやら過去の記録をそのまま身体に入れることは出来ないそうです。


つまり、


【Aさんを好きな気持ち】を持ったBさんが脳死したとします。

アルタラから、脳死になる前のBさんのデータを見つけます。(このBさんをB’とします)

B’にB が持っていた【Aさんを好きな気持ち】を持たせる必要があるため、【Aさんを好きな気持ち】を持つようにシミュレート(そうなるように出来事を操作)します。

B’が【Aさんを好きな気持ち】を持ったら、Bの身体へ同調(統合)させ、Bが蘇生する…




という仕組みであると筆者は解釈しました。

データAの世界からデータBの世界へいった瑠璃は、まさにそんな感じでデータBの瑠璃(器)と同調していましたね。

■データBのナオミと現実世界のナオミが同調出来た理由


物語の中盤にくる“どんでん返し”ですが、

データBのナオミもまた、アルタラ内の記録データの一部だったというオチでした。

「自分のいる世界こそが現実世界」と思って生活していたわけですから、本人からしたら結構ショッキングな事実ですよね…。


整理すると、
《直実の世界は、ナオミの世界のアルタラ内の記録》
《ナオミの世界は、また別のアルタラ内の記録》

という認識であっているでしょうか…


この事実が発覚した時も「ええええ!?」という驚きでしたが、さらに終盤にももう1つ“大どんでん返し”がきました。


それが、“現実世界のナオミ(直実)”の存在です。

ナオミの世界がアルタラの記録(データB)であるとわかった時点で、本当の“現実世界のナオミ”が他にいるということはすぐに察する事は出来ました。

が、まさか“現実世界のナオミ”が【脳死状態だった】とは…。


そして、データBのナオミは、ある一定の条件を満たして、この現実世界のナオミ(直実)と同調します。

この条件というのが、おそらくですが

『瑠璃のためを思って、行動を起こすかどうか』

だったのではないでしょうか。

「いやいや、蘇生させようとしてデータAに干渉している時点で瑠璃のために行動してるじゃん!」と思いますが、実はこの行動は『ナオミ自身のため』なんじゃないかなと思うんです。

その証拠に、ナオミはデータBの世界が自動修復プログラムで崩壊しようとしている時に

「ただ、彼女の笑顔をもう一度見たかっただけなんだ」
※うろ覚え

と言っています。

瑠璃の笑顔が見たいのはナオミの願望・欲ですよね。

データBの世界では、ずっと自分自身のこの欲のために動いていたことになります。
でも最後は「瑠璃を元の世界(データA-2)に戻す」為に、自動修復プログラムと戦う直実を助けるために身を投げ出すわけです。

これが、現実世界で眠り続けている“ナオミ(直実)”と同調させる条件だったのではないでしょうか。

おそらく、現実世界のナオミ(直実)は、「好きな人(=瑠璃)のために行動を起こす人」だったのではないかと考えられます。

もしそうなら、素敵すぎて泣けてくる…。

現実世界のナオミが脳死したのは、もしかしたら瑠璃を守ろうとして身を呈したからなのかも…なんて事も想像できます。
ナオミが瑠璃を元の世界(データA-2)に戻そうと思うようになったのは、データA-2の瑠璃と同調したデータBの瑠璃が、データBのナオミを“ナオミ”として認識しなかったからではないかと考えられます。

同調後の瑠璃にとっての“直実”は、自分(ナオミ)ではなくデータA-2の“堅書直実”だった…

直実を想う瑠璃を直実から引き離してまで、ナオミは瑠璃と一緒にいようとするエゴイストではないはず。

自分の欲よりも瑠璃にとっての幸せを願い、元の世界(データA-2)に戻してあげようと思ったのだと解釈しました。
本来、堅書直実とは、瑠璃のことを一番大切に想う人のはずですから。


■1つはナオミの“カラス”、1つは瑠璃の“カラス”


ナオミがもってきたカラス(グッドデザイン)は、アルタラ内部で作られたデータB世界のカラス。

現実世界からしたら、いわゆる旧型のグッドデザインですよね。

一方、物語後半で登場するカラスは、瑠璃の意識が投影された現実世界で作られたグッドデザインでした。

当然、ナオミ(過去)が持ってきたグッドデザインより高性能で権限も強いものになります。

このカラスは、ずっとデータA-2の瑠璃がもっていた本のしおりの中にプログラミングされていたようです。

つまり、現実世界の瑠璃があらかじめアルタラの記録(データA)に仕込んでいたということですよね。
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会


冒頭に出ていた羽の色(確か赤?)と後半に出てきた羽の色(黄色)が違っていたのは旧式と最新型の違いからでしょうか。
この描写は、「最初に見たカラスとは違うカラスだ」ということがすぐに理解できるようにしてくれていた優しい演出だったと思います。ありがたや。

このカラスの正体は、現実世界の瑠璃が《データBのナオミと脳死のナオミを同調させる為に最初から仕組んでいた助っ人アイテム》という解釈でいきたいと思います。

というのも、

「堅書実やナオミが、脳死という“止まった時間”に絡め取られた瑠璃を助ける」という風に本作は描かれていたと思いきや、実は【“止まった時間”に絡め取られていたのはナオミの方で、それを救う為に時間を駆けていたのが瑠璃だった】ということがラスト数秒のシーンで分かったからです。

大大どんでん返し!

キャッチコピーにあった「ラスト1秒で世界がひっくり返る」とは、このことだったんですね…。

このカラスの正体が未来の瑠璃だったと最後の最後に明かされる瞬間は、本当にゾクゾクっとしました。(良い意味で)

■直実と瑠璃が辿りついた新世界


直実と瑠璃がデータBから抜け出し辿り着いた世界は、リカバリーから再構築され、アルタラが新しく作り出した新世界でした。

記録の中ではない、全く新しい世界なので、これからこの二人は何でもやれる希望のある終わり方です!

グッドデザインと瑠璃のしおりが消失していく描写は、ああ本当にここが新しい世界なんだと確信付けてくれていたと思います。

現実世界のナオミが蘇生した事で、現実世界の瑠璃が仕組んだ蘇生プログラムは終了し、役目を終えた2つの助っ人アイテムはサラサラと消えていくわけです。

■タイトルの伏線回収と『WORLD』


その後のタイトルイン。
これが秀逸でした。

タイトルの伏線は、最後にタイトルインする時に回収されました…!
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会


WORLDのフォントカラーが反転するんです。
直実たちが辿り着いたアルタラが書き換えた新世界を表現しているのではないでしょうか。

まさに『HELLO WORLD』

スタートラインを表すプログラミング言語として使われるこの言葉は、新しい世界の書き換えを表すのに、これ以上ないベストなタイトルでした。

■劇伴『Lost Game』Nulbarich


ハロワには3曲の主題歌が充てがわれていて、しかも“映画音楽”を浸透させていくための企画として、本作の為に書き下ろされたそうです。

新海誠監督の『君の名は。』が作中で多用される音楽の演出はとても話題になったのが記憶に新しいですが、本作も同じく秀逸した音楽が贅沢に使われていました。

その中でも特に耳に残ったのが、Nulbarichの『Lost Game』です。
Nulbarich『Lost Game』

Nulbarich『Lost Game』


物語終盤の一番盛り上がるときに、BGM として流れてきた瞬間「なんだこの壮大なMVは!!!」と鳥肌が止まらなくなりました。

見終わった後、速攻でダウンロードです。

リリックも最高でした。

「運命は不条理」
「どうもがいても世界は笑うだろう」
「世界の果てでまた…」

“セカイ”に翻弄され“データ”に苦しんだ主人公たちの運命をそのまま落とし込んだような歌です。最高です。

筆者的には、これはナオミの歌だと思いました。
©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会

©️2019 「HELLO WORLD」製作委員会


彼が、身体を犠牲にし335回(※うろ覚え)の失敗を繰り返しやっと手にした過去データへの干渉、アルタラへの侵入。
その成功と失敗。
そしてその代償。

曲を聴くと、ナオミの心境の描かれなかった部分まで想像してめっちゃ泣けてきます…。

まだフルを聴いていない人はぜひ…。

■セカイ作品の新しい1つの答え


『HELLO WORLD』を観終わって、これまでの考察を自分の中で作り上げたとき、セカイ作品としての新しい1つの答えを見せつけられたと感じました。


カイか個人か。

その天秤と選択を様々な主人公たちの姿を通して、答えを出す作品を筆者はたくさん見てきました。

「天気の子」では、正しさを叫びながらも、実質はセカイより個人を選択した答えを示しましたよね。


このHELLO WORLDでは、新しいセカイを生み出し、ナオミと瑠璃、直実と瑠璃がそれぞれのセカイで生きる選択がなされたのがとても衝撃でした。

AかBかの理の中で、そのどちらをも選択し、もはやCを生み出す選択

“一行瑠璃が生存できない記録世界”を消し、“一行瑠璃と一緒に生きる世界”を生み出した直実の答えです。

むしろ、瑠璃が生きているとか一緒に生きていけるとか、それすらも決まっていないアルタラ世界です。
直実たちは過去の記録ではなくなった、という形での終わり方。


素晴らしすぎて、「声優はプロを起用しろ!」なんて話は心底どうでもよくなりました…

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