■はじめに

細田守監督作品『時をかける少女』メインビジュアル

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『時をかける少女』を観た人のほとんどが抱く疑問


「真琴と千昭は、結局未来で会えるの?」


について、今回はネタバレを交えながら考察をしていこうと思います。



千昭のラストシーンのセリフ
「未来で待ってる。」

真琴のセリフ
「うん。すぐ行く…走っていく…!」

はとても有名ですよね。
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

細田守監督作品『時をかける少女』作中画像


ちなみに、この千昭と真琴のやりとりをそのまま鵜呑みにすると、とんでもない解釈違いエンドになってしまう(気がする)ので、筆者的には要注意だと思っています。

とは言え本作は、その後の話は見る人の想像にお任せ〜という終わり方でもあるので、「千昭と真琴は会えた(物理)」と考察するのも間違いではないでしょう。


また、このセリフを紐解くと、本編のラストで真琴が言う「やる事」も、うっすらと見えてきます。


■本作の人物おさらい


考察をしていく前に、まずは本作のキーパーソンを簡単に振り返っておこう!
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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紺野真琴(画像:中)
本作の主人公。
ある日突然、時間遡行(タイム・リープ)の力を手にいれる。
この能力を使って、食べ放題を何度も繰り返したり小テストで100点取ったりなど些細な私利私欲を満たしていくが、それが後に大きな事件を引き起こす。

間宮千昭(画像:左)
本作の超キーパーソン。
高校3年の春から転校してきて、真琴と功介と一緒につるむようになる。
勉強は、数学“だけ”が優秀。
実は、未来からきた未来人。真琴がタイム・リープができるようになったのも、千昭が落としたタイム・リープ装置を使ったため。
ある目的をもって、真琴たちの時代に遡ってきた。

津田功介(画像:右)
真琴の友人。
大学は医学部を目指しているほど頭が良いのに、なぜか頭の悪い真琴と仲が良く、放課後は真琴と千昭の3人で野球(の真似事)をしている。
作中では、真琴のタイム・リープの乱用によって一度電車との衝突事故で死ぬ。



物語の主要メンバーはこの3人(特に真琴と千昭)ですが、実はもう一人、物語の道しるべ的な役割を担うキャラクターがいます。
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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via ©「時をかける少女」製作委員会2006

芳山和子
真琴の叔母で真琴からは「魔女おばさん」と呼ばれている。絵画修復士として国立博物館に勤務しており、真琴の良き相談相手として度々登場する。
過去にタイム・リープを経験している為、私利私欲にこれを乱用している真琴に対して、「真琴がいい目見てる分、悪い目を見てる人がいるんじゃないの?」と釘を刺す。
実は、原作『時をかける少女』の主人公。


この魔女おばさんの存在は、後々の真琴の考えに大きな影響を与えることになります。


■千昭の目的


「未来から来た」と言われたら真っ先に気になるのはやはりその目的ですよね。

『なぜ千昭は、未来からこの時代にわざわざやってきたのか』

これについて千昭は作中で、

「どうしても見たい絵があったんだ。
どれだけ遠くにあっても、どんな場所にあっても、どれだけ危険でも見たかった絵なんだ。」


と話しています。
また、“真琴たちのいるこの時代”でなくてはいけなかった理由も述べています。

「俺の時代では既に焼失(消失)してしまった。この時代以前では所在が何処かも分からない。
あると確実に記録に残っているのは、この時代の、この場所の、この季節だけだった。」


そうまでして見たかった絵とは一体何なのか?


その絵画の名前は、

『白梅ニ椿菊図(はくばいにつばききくず)』
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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千昭の時代ではもう見られない代物で、でもどうしても見たくて所在を調べた結果、真琴のいるこの時代に存在していた事が分かったから飛んで来た、という事らしいです。

そして所在が確認されていたこの時代では、絵画修復士である真琴の叔母がこの絵の修復をしていました。



しかし真琴がタイム・リープを何度もすることで、千昭は“絵の修復が完了した日”を迎えることが出来ずにいたんです。

自分の私利私欲を満たす為に行っていたタイム・リープが、知らぬ間に誰かの阻害をしていたことを真琴は知るわけです。

魔女おばさんが真琴に言った「真琴がいい目見てる分、悪い目を見てる人がいるんじゃないの?」という伏線がここで回収されます。

ちなみに真琴は、この絵の修復が完成し博物館に展示された瞬間を一度だけ見ています。


■絵画を見たかった理由

細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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魔女おばさんは、『白梅ニ椿菊図』についてこう解説しています。


「この絵が描かれたのは何百年も前の歴史的な大戦争と飢饉の時代世界が終わろうとしてた時、どうしてこんな絵が描けたのかしらね。」


千昭がタイム・リープを使ってでも見たかった絵画は、

“大戦争と飢餓で世界が終わろうとした時代”

に描かれたものでした。

はっきりと明言されていませんが、魔女おばさんが言うこの絵の制作背景は、千昭のいた時代を示唆する伏線の1つであると考えられます。

つまり、おそらく千昭の時代では世界の崩壊あるいは戦争が深刻化しているのではないでしょうか。



「川が地面を流れているのを初めて見た。自転車に初めて乗った。空がこんな広いことを始めて知った。何より、こんなに人が沢山いるところを初めて見た。」

という千昭のセリフからでも分かるように、千昭の生きる時代とこの時代とは、大きく異なっていることが伺えます。



《千昭の時代背景の考察》

■“川”という概念はあるものの、おそらく史実上の話で知っているだけで、“川”は現存していない。

■空が広いという事を知らなかったということは、空が開けて見える場所がない。つまり、川が消え失せるほどの高層ビル群が連なっているか、地下に潜っての生活をしている。

■現代の道ゆく人々を見て「人が多い」と感じたという事は、少子化が進行しあるいは大戦争により人口が激変。



実は、真琴がタイム・リープの力をチャージする時に幻覚を見るのですが、その時に“未来らしき世界”が一瞬だけ描かれているんです。



逆さに描かれた、燃え上がる炎と逃げ惑う人影たち
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

via ©「時をかける少女」製作委員会2006


空が見えないビル群の風景
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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via ©「時をかける少女」製作委員会2006


もしかしたら、これが千昭の時代の景色なのかもしれないですね。


■終盤のストーリーをおさらい


本題に入る前に内容のおさらいをしましょう。


《物語終盤のおさらい》
物語の終盤では、真琴の失態で電車に轢かれて死んでしまう功介を助ける為に、千昭は最後のタイム・リープを使います。
時間遡行できる回数がゼロになってしまった千昭は、自分の時代に戻れなくなります。

さらに過去の人間にタイム・リープの存在を知られてしまうのは御法度。
真琴に知られてしまった千昭は「もうお前とはいれない」と言って姿を消しました。

真琴は、自分に残った最後のタイム・リープを使って“功介が生きていて、千昭がラスト一回のタイム・リープを使う前の時間”に戻ります。

功介が電車事故に合わないように事を済ませ、その足で千昭に会いに行き、全てを話して千昭を未来へ帰るように誘導します。

最後のタイム・リープを使って千昭が未来へ帰ろうとする時、

千昭「未来で待ってる。」
真琴「うん。すぐ行く…走っていく…!」


という約束を交わし、千昭は未来へ帰ります。
細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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■千昭はなぜ未来へ戻ってすぐ過去に飛んで来なかったのか


『時かけ』を観た人の中に、時々いるのが


「一回未来に戻って、またチャージして過去に戻って来ればええやん。」


という考え。

確かに、ラス1のタイム・リープを使って未来に戻り、またチャージして戻ってくれば真琴にはすぐ会えるし、絵も見られるし、良い事尽くしのハッピーエンドのはず。



ではなぜ千昭はそれをしなかったのでしょうか?

答えは簡単で、しなかったのではなく“出来なかった”のではないかと考えられます。


ここは、筒井康隆の原作文庫『時をかける少女』を読めば、出来なかった理由はすぐに予想がつきました。

角川文庫『時をかける少女』

角川文庫『時をかける少女』

via 筒井康隆

原作では、未来人が過去の人間にタイム・リープの存在を知られた場合、“二度と過去に行けなくなる”というペナルティーを受けることになっています。

さらには、過去の世界で関わった人達の中から、未来人(当事者)に関する記憶が全て消去されるのです。



多くの時間遡行系作品でも語られているように、未来を知られてしまうとパラドックスを引き起こす原因にもなります。

1つの歴史的大きな出来事を吹っ飛ばす可能性もあり、様々な歪みを生む為、時間遡行において“未来を知られてしまう”のは重罪とされています。



つまり千昭も、真琴(過去の人間)にタイム・リープの存在を知られた上に、悪用はされていない(功介死んじゃってるけど…)とはいえ、勝手に使われてしまった事実があり、おそらく未来に戻ったら始末書どころの話ではないでしょう。

千昭は確実に、二度とタイム・リープを使わせてもらえない状態になったと思います。


明言はされていませんが、真琴もなんとなく“そういう事情”があることを察し「千昭には二度と会えない」ということも、なんとなく分かっていたのだと考えられます。


■「未来で待ってる」の意味


さて、互いに「もう二度と会えない」と思っている中で、なぜ二人は再会を彷彿とさせるような約束を交わしたのでしょう?


特に「もう二度と会えない」ことは千昭が一番よく知っているはずなのに、希望を持たせるような「未来で待っている」という言葉を残した真意とは一体何なのか、それを考察していきましょう。



そもそも千昭の時代は、100年なのか1000年なのかは分かりませんが、タイム・リープが開発されていることを考えると決して近い未来ではないはずです。

真琴が生きて千昭の時代に物理的に辿り着くのは不可能と考えるのが妥当です。


とすると、千昭が待っているのは

“真琴そのもの”

ではなく

“真琴と繋がっているもの”

だということが予想できます。



では、真琴が未来に残していけるものとは…?



千昭が未来へ帰ってしまうちょっと手前で真琴が言ったセリフがその答えとなります。


「あの絵、未来に帰ってみても…もうなくなったり、燃えたりしない。千昭の時代にも残ってるように…なんとかしてみる。」



つまり『白梅ニ椿菊図』を遠い未来まで残るようにするよって事ですね。

この時代のこの時期でしか所在が確認出来なかったこの絵を管理し続け、世代を引き継いで、千昭のいる時代まで残り続けたら…?

千昭は自分の時代で「絵を見ることが出来る」わけです。


つまりそれは、その絵を通して“真琴に会う”ことを意味します。

“間接的に会う”ことで、二人は再会を果たすというハッピーだけど切ない未来エンドが想像できます。




■真琴の“やること”

細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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3人の日常会話では、進路はどうするか?という高校生らしいトークもしていました。

エンドロールに入る手前、真琴は功介に「私もさ、実はやること決まったんだ」と言います。

「へー、なに?」と聞き返す功介に対して「ひ・み・つ!また今度ね!」と言って“やる事”についての言及はここで終わってしまいます。


結局真琴のやる事が何なのか分からないまま本編は終わってしまいますが、千昭とのやりとりやここまでの考察を踏まえて考えると

現代の遺産を後世に残していく事

が考えられます。



そして可能性として1つの職業が候補に上がりました。


真琴の叔母・芳子の職業でもある

『絵画修復士』

になることです。


真琴は千昭に口約束した『白梅ニ椿菊図』を自分の手で未来に残していかなければなりません。

そうなると、一番有効的なのは絵画修復士として国立博物館に勤め、絵を管理する人物になる事。

これが千昭との約束を守る為の真琴の“やること”と考えられます。


■魔女おばさんが絵画修復士をしている理由


実は、芳山和子がこの仕事をしているのにも重要な理由があるんです。



その答えは、琴音らんまるの漫画版『時をかける少女』で描かれています。

角川コミックス・エース『時をかける少女』

角川コミックス・エース『時をかける少女』


芳山和子がタイム・リープしていたという話については、原作文庫にて描かれているのでぜひ読んでみてください。

その時に出会った未来人との記憶は、“彼”が未来へ帰る時に消されているんです。

なので、芳山和子は誰かを忘れている気がするけど思い出せないまま日常を過ごしていくのですが、この漫画の番外編にて“彼”のことを思い出します。

それからは、「どこかの未来にいる彼に“私は元気です”ということを伝える為に絵を直し続けている」そうです。

時を超えていく想いを描いている作品であることがはっきりと理解できる描写ですね…。



■絵は千昭の時代に届けることが出来たのか?

細田守監督作品『時をかける少女』作中画像

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最後に気になるのは、真琴はあの絵を未来に残す事が出来たのかどうか…。

その結果については、どう考察しても答えを出すのは難しかったです。

個人的な希望としては、千昭が未来に戻ったあの瞬間に『白梅ニ椿菊図』が千昭の時代に存在していてほしいと思っています。

真琴が「すぐ行く」と言った言葉に、希望があると信じたいですね!



以上、『時かけ』考察でした。

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